欧米で注目される組織マネジメントの手法「システム思考」とは?

システム思考とは、欧米の企業や日本の外資系企業で取り入れられている組織マネジメントの手法です。グローバル化、多様化する現代のビジネスシーンにおいて、さらに必要性が増しています。

そこで、システム思考の基本の考え方、ツールを説明するとともに、実際の導入具体例を交えてそのメリットもお伝えしたいと思います!

 

◆システム思考の概要

最初にシステム思考について、基本の考え方をお伝えします。

 

●システム思考(システムシンキング)とは何か?

解決しなければならない問題を「システム」と見なし、多面的な見方で原因究明とその解決を目指すメソッドのことシステム思考(システムシンキング)といいます。
性格や性質の違う個人が集ってともに働く企業という場において、問題が発生する裏には複雑なバックグラウンドがあります。近年はビジネスのグローバル化、またビジネス戦略や組織の多様化で、さらに多くの要素が複雑に絡み合って作用しています。

にもかかわらず、ついつい業務に忙殺され、組織やチームの意思決定は思い込みや先入観で決まることがしばしば起こります。

こうした複雑な背景から生じる問題において、表面的な対策に頼るのではなく、根本的な解決法を探すのに有効なのがシステム思考なのです。

 

●システム思考の歴史

現在、欧米や日本の外資系企業で多く取り入れられているシステム思考は、1956年にシステム科学者のジェイ・フォレスター氏が創案した「システムダイナミクス」が基になっています。当初は、時間とともに変わる企業の性質を考えるために生まれたものでしたが、徐々に地域問題や国家問題、医療の分野などほかの分野にも応用されるようになっていき、社会システム全体を扱うようになりました。

1990年、システム科学者のピーター・センゲ氏は著書『最強組織の法則』で学習する組織について提唱し、そのなかでシステム思考を紹介しました。その後この方法論は、教育現場や企業のマネジメントにおいて扱われるようになっていったのです。

 

●システム思考のメリット

システム思考の一番のメリットは、多面的な見方によって視野が広がることです。自分の考えにフィルターをかけている思い込みがなくなり、より柔軟性のある考え方をしたり、思いもよらなかった発想が出てきたりする可能性が高まります。複雑なシステムを大局的に把握するため、物事の全体像がよりつかみやすくなります。そうすると、何が関わり合って問題を作り出しているのかが見えるようになり、根本的な原因を突き止めることができるでしょう。

 

◆システム思考のプロセス&ツール

システム思考の代表的な思考プロセスである「氷山モデル」、そして実践的なシステム思考ツールを紹介します。

 

●氷山モデル

氷山モデルとは、「出来事」「パターン」「構造」「メンタルモデル」の4つから成るアプローチです。

氷山モデルの例として、残業が多い技術職の部署があり、削減がうまくいかないというケースを考えてみましょう。
 

出来事は、目に見える事象のことを指しますが、表面化するのは問題のほんの一部で、氷山の一角のように、その後ろにより大きな問題が潜んでいることが多いものです。

したがって出来事を確認したら、そこにどのようなパターンがあるかを調べます。どんな行動で起きたものか、時間が経つとどんな変化が起きるかなどの傾向を探ります。この技術部では、新しいプロジェクトが始まって少し経った時期に、特に残業が増えるパターンがあることがわかりました。

次にこのパターンを引き起こす構造を見極めます。技術部のパターンから背景にある構造を調べると、新しいプロジェクトをとってきた営業職と、現場の技術職のコミュニケーションがうまくいっていないことがわかりました。技術者側がプロジェクトの要件や内容をうまく把握できず、開発に着手して少し経ってから、顧客の求めているものと違うことがわかり、一時停止や修正などに時間をとられ残業が増えているという構造が判明したのです。

最後のメンタルモデルは、この構造を作った関係者を特定する作業です。この例であれば「実は営業部長が技術部とのコミュニケーションを軽視しており、そうした意識が営業部に蔓延してしまっていることがわかった」というように、原因となる関係者が割り出されます。

 

●ループ図

この氷山モデルを可視化したものがループ図です。出来事を起こしている複数の物事の因果関係を、よりわかりやすく把握するのに役立ちます。

 

●システム原型

違う分野に共通する問題構造の形を表すのに使います。一つひとつは異なる問題構造でも、広い視野で見れば1つの大きな問題構造のなかにすべてが含まれているという形です。

 

●ストック&フロー図

システム思考のなかでも高度なツールで、全体の出来事、パターン、構造を把握するのに役立ちます。複数の要素がどのようなフローで影響し合っているかを表す図です。

 

●システム・ダイナミクス・モデリング

前述した、システム思考の基となったシステムダイナミクスのシミュレーションで、コンピューター・モデリングを使用します。複雑度の高い物事を理解するのに有効ですが、高度な知識が必要になるため、外部の専門家に依頼するのがよいでしょう。

 

●時系列変化パターングラフ

時間の経過を軸にして物事を見ることも、システム思考の重要なアプローチ法です。抱えている問題が、時間によってどのように推移してきたか、そのなかに傾向やパターンを客観的に見つけてグラフにし、問題構造の把握に役立てます。

 

◆システム思考の導入成功例

実際にシステム思考を導入して成功した、アメリカ企業の事例を見てみましょう。

 

自動車メーカー:米・ゼネラルモーターズ(GM)の事例

1990年代のアメリカでは、中古車販売の巨大な流通網が誕生しましたが、当時、GMを含む大手自動車メーカーは、中古車の顧客層と新車の顧客層は全く違うものと考えていました。しかし、中古車市場は徐々に彼らの脅威となっていき、GMの経営陣はなぜそれが起こっているのか理解しようと、システム思考家に助言を求めました。システム思考により、中古車市場の顧客は自分たちの顧客ではない」という経営陣の考えと、現実のギャップとを指摘され、経営陣のなかにメンタルモデルによって突き止められました

そして、自動車メーカーが短期のリース販売により顧客の頻繁な買い替えを推奨したことで、「中古車市場では新古車が早いサイクルで出回り、それが結果的に新車市場を圧迫している」という全体構造が明らかになったのです。GMはその後、短期リース戦略を見直すこととなりました。

 

化学メーカー:米・デュポンの事例

化学メーカーのデュポンは、1990年代、設備の稼働時間率が理想より10~15%低いにもかかわらず、維持コストは10~30%高いという問題を抱えていました。そこで、経営陣がシステム思考の専門家に診断を依頼したところ、「現場では故障した設備の応急処置に追われ、予防保守に時間をかけていられないという現状が明らかになりました。

さらに、システム思考のアプローチで「なぜ予防保守に時間をかけられないのか」を掘り下げていくと、業界の競争によるコスト削減のプレッシャーから設備の質が低下、それに伴い従業員の生産性も低下していることがわかりました。それがさらなる設備の故障を引き起こし、予防保守の時間を削っていたのです。そればかりか売上が低下し、設備投資に回す金額が減っているという悪循環も起こっていました。

これを踏まえ、経営陣はコスト削減という前提から脱却し、また現場の従業員に向けて、予防保守がいかに大切か、問題の構造は何かを理解してもらうためのワークショップを開催しました。当初はコストが増えましたが、その後は目覚ましい成果を上げ、設備の維持コストは20%の削減に成功しました。

◆まとめ

システム思考は、まだ日本では浸透していませんが、グローバル化し、複雑化・多様化しているビジネスにおいて、さらに重要性を増していくと考えられます。事業や仕事が行き詰まったときや問題が起きたときなど、あるいはその予防策として、システム思考を理解し、活用していくことが今後求められていくのではないでしょうか。



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